夫婦関係の破綻と不倫慰謝料
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夫婦不仲アピールは不倫交際の常套文句
不倫慰謝料を請求された事案のご相談を受ける際、交際に至る経緯を聞くようにしておりますが、交際開始前、その相手から、妻(夫)との夫婦仲が良好ではない、妻(夫)とは長年セックスレスだなど説明された上で夫婦関係は破綻しているから交際しても大丈夫と言われ、それを信じて交際を受け入れたとの話をよく伺います。
このような場合で、のちの交際相手の妻(夫)から慰謝料請求を受けた際、その請求を免れたり、減額させたりすることができるでしょうか。今回は不倫交際開始時における夫婦関係の破綻の問題が、慰謝料請求にどのような影響を与えるかにつき解説させていただきたいと思います。
交際開始に「破綻していた」と認められれば慰謝料はなしになる??
この問題については、平成8年3月の最高裁判決により、仮に不倫交際があった場合でも、交際開始時にその夫婦関係が破綻していたと認められる場合は、原則として不法行為は成立しないとのルールが判例上確立されました。
この判例によれば、不倫交際開始時に、夫婦関係が破綻していたと認められれば、論理的には慰謝料が減額されるどころか0円(請求棄却)になるということを意味します。
ただ「破綻」が認められるのはかなり難しい
この判例の存在のため、多くの不倫慰謝料事件において、被告側から「交際開始時にはその夫婦関係は既に破綻していた!」との反論(抗弁)が展開されます。しかし、実際の裁判において、裁判官は「破綻」の認定にはかなり厳格であり、そう簡単に認めてくれません。
裁判上での「破綻」の定義は様々ですが、その夫婦が完全に修復の見込みのない状態に陥っていると客観的に認められなくてはならず、長期間の離婚を前提とした別居や、夫婦間での離婚に向けた調停申立てなどの事実が、不倫交際開始前に存在している場合などに例外的に「破綻」を認めているに過ぎないと言えます。
破綻を信じていたとの反論はなかなか通らない
もっとも、裁判所も完全に破綻していたとは容易に認めない代わりに、「破綻寸前だった」「形骸化はしていたが破綻には至っていない」などと表現しつつ、慰謝料の発生は肯定しつつ、慰謝料額の減額事由として考慮することはあります。
これは、例えば刑事事件で殺人を犯した場合、殺人してしまった経緯の中で被告人に酌むべき事情(例えば、被害者からいわれのない喧嘩を売られた結果、殺してしまったなど)があったとしても、無罪になることはまずなく、場合によっては刑が少し軽くなる情状として考慮されるのと構造は似ているかと思います。
話題は冒頭に戻りますが、交際開始前にその相手からの「夫婦関係は破綻している」との言葉を信じて不倫交際を受け入れたとしても、そのことをもって慰謝料の責任から完全に免れることは裁判実務上かなり難しい、ということを知っておくことはとても重要だと思います。